テコンドーとは
「テコンドーとは」と、ひと言で定義づけるのは難しいのですが、簡単に言えばネリョチャギ(カカト落とし)やティットラチャギ(後ろ廻し蹴り)などの華麗な足技に代表される「蹴る」ということに特出した競技といえます。現在WT(世界テコンドー連盟)には世界160カ国以上が加盟し、競技人口は5000万人以上を超え、多くの人に親しまれている競技でもあります。
よくテコンドーのことを「足のボクシング」とたとえることがありますが、ここで言っている「足のボクシング」とは「キックボクシング」のことではありませんので念のため申し添えておきます。
では、なぜ「足のボクシング」と言われるのでしょうか?
まず、「パンチ」と「蹴り」という違いはあるものの、テコンドーのルールがボクシングと同様に「ウエイト制」、「ラウンド制」、「ポイント制(KOあり)」、「ボディプロテクター及びヘッドギアを着用してのフルコンタクト制」であることです。そして何より、ボクシングが腰から上だけの部位に対するパンチによる攻撃に限定し、パンチの技術を発展させてきたように、テコンドーは他の打撃系格闘技と比較し、蹴り技の占める割合が非常に高く、攻撃部位もボディ及び頭部(いずれも前面)への足による攻撃を有効とし、腰から下への足による攻撃、顔面へのパンチ及びボディへのパンチの連打を無効とするなど、攻撃部位並びに攻撃方法を限定することにより、多彩な蹴り技の技術を発展させてきたところが、「足のボクシング」と言われる所以ではないでしょうか。
1988年ソウルオリンピック、1992年バルセロナオリンピックにおいて2度の公開競技を経て、2000年シドニーオリンピックより正式種目となりました。そのシドニーオリンピックで銅メダルを獲得し、続く2004年アテネオリンピックにも2大会連続出場した岡本依子選手の活躍により、ようやくお茶の間でもテコンドーという競技が注目され、みなさんにも知られるようになりました。
テコンドーの歴史
創始者である崔泓熙(チェ・ホンヒ)氏が、朝鮮半島に昔から伝わる伝統的な古武術テッキョンなどに、氏が日本に留学中に学んだ「松涛館空手」の動きなどを基礎とし、研究を重ねて、独自の技術体系を確立し、1955年にテコンドーと命名しました。漢字で書くと「跆」は「踏む」「蹴る」「跳ぶ」を意味し、「拳」は拳(こぶし)で突くこと、「道」は正しき道を歩む精神を意味します。
1966年にITF(国際テコンドー連盟)が韓国ソウルにて発足しますが、1973年に崔泓熙(チェ・ホンヒ)氏がカナダへ政治亡命をし、その際ITFの本拠地をトロントへ変更したことにより、韓国においてテコンドーを存続させる目的からWTF(世界テコンドー連盟)が、同年ソウルに設立されました。
テコンドーの原形がなんであるのかということで、古くは高句麗時代の遺跡にある壁画に、その姿を見ることができるといわれますが、何をもってしても、これこそがテコンドーの原形であると特定することは困難だと思われます(テコンドーという正式名称は1955年)。武道に限らず、何かを学ぶということには「守」「破」「離」という段階があります。類に漏れず、テコンドーもこれらの段階を踏んで、現在の技術体系が作られてきたことに変わりありません。
このような経緯により、オリンピック正式種目である近代スポーツとしてのテコンドーは、WTF(世界テコンドー連盟)が創設された1973年に始まります。当然、ITFとは技術体系も異なった形で発展することとなりますが、ソウルオリンピックでの公開競技となったのを契機とし、当初は他の競技(空手、サッカー等の経験者)からの転向組も多く(以前は国内での競技人口が少なかったので場合によっては私もオリンピック選手に...などとタナボタを期待してたのかも...)、現在のようにきちんとした指導方法や指導者などが整っていなかった時期もありました。
国内での競技人口は1万5000人程度と世界的にはテコンドー後進国といった感はぬぐえませんが、現在、本場韓国にテコンドー留学する選手や、国際大会でも活躍する選手も輩出し、世界レベルの技術も導入され、今後益々国内におけるテコンドーの広がりが期待されています。
競技テコンドー
競技としてのテコンドーですが、8m×8mのマット上で、男女とも通常体重別による8階級に分けられ、ボディプロテクター及びヘッドギアを着用し、国際試合においては1ラウンド2分間を3ラウンド行い、体の前面(ボディ、顔)へのパンチと蹴りによる攻撃を行いますが、顔への攻撃は蹴りのみが許されています。それ以外(体の後面、下段)の攻撃は厳しく禁止されています。勝敗はポイント制で、KO、TKO、ルール違反による減点、ポイントの優劣による判定等により決められます。
テコンドーは、フェイントにより、いかに上手く相手を誘導し、そこにカウンター攻撃をしてポイントを取るかといったゲーム的な側面と、的確な攻撃によりノックダウンを奪うといった格闘技的な側面を併せ持った競技であるともいえます。
また、テコンドーは通常行われる組手(キョルギ)試合の他、型(プムセ)の完成度を競うもの、試割り(キョッパ)を競う競技もあります。そして、美容や健康増進などのためにテコンドーの動きを取り入れたテコンドービクスも世界で広がりつつあります。
これからは、競技としてのテコンドーだけではなく、老若男女誰でも生涯を通じて取り組めるものとして広まっていくことが期待されています。
蹴り技
テコンドーの蹴りですが、古くは武道家でありアクションスターのカリスマ的存在でもある故ブルース・リーがスクリーンの中で世界中の多くの人達を魅了した蹴りの数々にもその片鱗が見受けられます(「いや、あれはテコンドーの蹴りではなく、サバットの蹴りだ」、っとおっしゃる方もありましょうが...)。近年では(っと言っても、少々古いのですが)、映画「帝王伝説」「ベスト・オブ・ザ・ベスト」で主役を演じた、フィリップ・リー氏もテコンドーの高段者です(フィリップ・リー氏のアクションが韓国の国技テコンドー及びハプキドーを体現しています。もし良ければ、今すぐレンタルビデオ屋さんへGO!)。
では、テコンドーの蹴りと他の格闘技の蹴りとの違いは何なのでしょうか?
比較しやすいようにフルコンタクト空手と比べてみましょう。双方とも主に用いる蹴り技に「廻し蹴り」がありますが、フルコンタクト空手が最初に腰を回すことにより大きな遠心力を生み出し、その遠心力を足に伝えることにより「廻し蹴り」を蹴るとすれば、テコンドーの場合は膝を上げることが第一で、膝に引っ張られるように腰や軸足が動いて行き、目標に蹴りが当たる瞬間に腰と軸足を回転させながら、膝から先を解放し、スナップを効かして目標を蹴り抜くように蹴るといった感じでしょうか。
フルコンタクト空手の蹴りが大砲だとすれば、テコンドーの蹴りはマシンガンのような速射砲と例えられることもあります。
フルコンタクト空手の場合、一歩踏み込めば手が届く距離での攻防となるため、蹴りを出す場合、軸足をほぼ固定した状態で腰を大きく回すように廻し蹴りを蹴ります。遠心力が大きく働くため、蹴りのパワーは当然大きくなりますが、この蹴り方は動かない、もしくは前後の動きが小さい標的に対して有効な蹴り方なのです。
一方、テコンドーの場合は、一歩踏み込めば足が届く距離での攻防であり、間合いそのものが広く、常に前後、左右に動きがあるため、軸足を動かさずに腰を大きく回し、遠心力を使った蹴り方では相手を捉えることができないのです。動く標的を追いかけ、蹴りで捉えるためには、軸足を常に前に送りながら蹴り出していかなくてはいけません。軸足を前へ送り出して蹴ることによって、動いて下がる相手を追いかけるように連続攻撃が可能となるのです。
どちらの蹴りが良いのかといった問題は、実際ルールが違う競技なので、お互いその競技のルールに適した蹴り方をしているというだけなのです。